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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)10956号 判決 1978年7月27日

原告

長谷正子

ほか三名

被告

土屋長治

ほか一名

主文

被告土屋長治は、原告四名に対し、それぞれ、金一〇万一、〇三七円及び内金九万一、〇三七円に対する昭和五一年一月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告四名の被告土屋長治に対するその余の各請求及び被告土屋久重に対する各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用のうち、原告四名と被告土屋長治との間に生じた分は、これを六分し、その一を同被告の負担とし、その余は原告四名の負担とし、原告四名と被告土屋久重との間に生じた分は、原告四名の負担とする。

この判決は、原告四名勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告四名訴訟代理人は、「被告両名は、各自、原告四名に対し、それぞれ金一〇一万一、四三〇円及び内金九三万一、四三〇円に対する昭和五一年一月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告両名の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告両名訴訟代理人は、「原告四名の請求を棄却する。訴訟費用は、原告四名の負担とする。」との判決を求めた。

第二請求の原因

原告四名訴訟代理人は、本訴請求の原因等として、次のとおり述べた。

一  事故の発生

亡水野貞子(以下「貞子」という。)は、昭和五〇年八月二九日午前五時二〇分頃、堀利弘の運転する普通乗用自動車(埼五六ゆ四七六号。以下「被害車」という。)に同乗し、埼玉県入間市大字小谷田一丁目一三番一九号先路上を走行中、対向車線を走行してきた被告土屋長治(以下「被告長治」という。)の運転する普通貨物自動車(静岡一一さ二一〇六号。以下「加害車」という。)が中央分離帯を乗り越えて被害車と衝突した事故(以下「本件事故」という。)により、頭部外傷、脳挫傷、右第二、第三及び第五肋骨骨折、両恥骨骨折、右大腿骨骨折並びに右母指末節脱臼骨折の傷害を受け、同年九月五日、入間市所在の原田病院において死亡した。

二  責任原因

1  被告長治の責任

被告長治は、加害車を運転中、目的地の工場の位置を確認するためハンドルのところにぶら下げられていた送り状を見ようとしてハンドル操作を誤り、加害車を被害車の車線内に進入させた過失により本件事故を惹き起こしたものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、本件事故により貞子及び原告四名が被つた損害を賠償する責任がある。

2  被告土屋久重(以下「被告久重」という。)の責任

被告久重は、被告長治の兄であるが、加害車を所有し、同被告と共同して運送業を営んでいたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、本件事故により貞子及び原告四名が被つた損害を賠償する責任がある。

三  損害

貞子及び原告四名は、本件事故により、次の損害を被つた。

1  治療関係費

貞子は、本件事故による前記傷害のため、原田病院に入院し、治療費として金一八四万六、三一〇円、七日間の入院付添看護費用として一日金二、〇〇〇円の割合による金一万四、〇〇〇円、右期間の入院雑費として一日金五〇〇円の割合による金三、五〇〇円、以上合計金一八六万三、八一〇円の治療関係費を要し、同額の損害を被つたところ、原告四名は、いずれも貞子の子で、他に貞子の相続人はいないから、貞子の右治療関係費の損害賠償請求権を法定相続分(いずれも四分の一)に従い金四六万五、九五二円あて相続した。

2  葬儀費用

原告四名は、貞子の死亡に伴い葬儀を執り行い、葬儀費用としてそれぞれ金一〇万円を支出し、同額の損害を被つた。

3  逸失利益

貞子は、本件事故当時五六歳の女子で、二〇年間同居した内縁の夫堀利弘と堀製作所の名称でダイカスト加工業を営み、相当の高収入を得ていたもので、同女の年収は、労働大臣官房統計情報部編昭和四九年度賃金構造基本統計調査報告(以下「賃金センサス」という。)第一巻第一表、産業計・企業規模計・学歴計・五五歳以上五九歳以下の女子労働者の平均賃金年収金一一三万二、八〇〇円に昭和五〇年の賃金上昇率一〇パーセントを加算した金一二四万六、〇八〇円を下らなかつたとみるべきところ、同女は、本件事故に遭わなければ、六七歳に至るまで稼働し、この間毎年右金員を下まわらぬ収入を得、その五割を生活費として要した筈であるから、以上を基礎として、新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同女の得べかりし利益の喪失による損害の死亡時における現価を算定すると、金五三五万一、九一三円となるところ、原告四名は、貞子の右逸失利益の損害賠償請求権を前記法定相続分に従い金一三三万七、九七八円あて相続した。

4  慰藉料

原告四名は、いずれも貞子の子であるが、本件事故により最愛の母を失い、筆舌に尽くし難い精神的苦痛を被つたもので、これを慰藉するに足る金員は、それぞれ金二〇〇万円を下らないというべきである。

5  損害のてん補

原告四名は、本件事故による損害のてん補として自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)からそれぞれ金二九七万二、五〇〇円を受領した。

6  弁護士費用

原告四名は、被告両名が任意に損害を弁済しないため、やむなく、本訴の提起、追行を原告四名訴訟代理人に委任し、手数料としてそれぞれ金八万円を支払う旨約した。

四  よつて、原告四名は、被告両名に対し、各自、本件事故に基づく損害賠償として、前項1ないし4の合計金員から5の金員を控除し、同項6の弁護士費用を加えた各金一〇一万一、四三〇円及びこれから弁護士費用を控除した金九三万一、四三〇円に対する本件事故発生の日の後である昭和五一年一月二七日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  被告両名の過失相殺の主張に対する答弁

被告両名の過失相殺に関する主張事実は、争う。

第三被告両名の答弁等

被告両名訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁等として、次のとおり述べた。

一  請求の原因第一項の事実は、認める。

二  同第二項1の事実は、認める。同項2の事実中、被告久重が被告長治の兄であることは認めるが、その余の事実は否認する。被告久重は、被告長治が加害車を購入した際、同被告がアパート住まいで車庫証明を得られなかつたため、同被告に頼まれ、被告久重名義で購入することを認めはしたが、加害車の所有者ではなく、また、被告長治と共同して運送業を営んでいたものでもないから、加害車の運行供用者には当たらない。

三  同第三項の事実中、5の事実は認めるが、その余の事実は知らない。

四  過失相殺の主張

本件事故現場は、全車道幅員約一五メートルで、車道両側に幅員一・五メートルの歩道が設けられ、高さ二五センチメートル、幅五〇センチメートルの中央分離帯により川越方面行車線と八王子方面行車線とに区分された国道一六号線バイパスの八王子方面行車線上であるが、被告長治は、川越方面行車線を時速約六〇キロメートルで走行中、運転を誤つて、右側車輪を中央分離帯に乗り上げ、左右両車輪の間でこれをまたぐようにして約五三メートル走行後、左側車輪も中央分離帯に乗り上げ、対向してきた被害車と衝突し、本件事故を惹き起こしたものであるところ、他方、堀利弘も、被害車を運転し、八王子方面行車線中央線寄りを猛スピードで走行中、中央分離帯に乗り上げ前述の状態で走行してくる加害車に対し、全く回避措置を採ることなく衝突したのであるから、本件事故については、堀利弘の過失も大きいものというべく、右の被害者側の過失は損害額の算定に当たつて考慮されるべきである。

第四証拠関係〔略〕

理由

(事故の発生)

一  原告四名主張の日時及び場所において、貞子が堀利弘の運転する被害車に同乗して走行中、被告長治の運転する加害車が中央分離帯を乗り越えて被害車に衝突した本件事故により、頭部外傷、脳挫傷、右第二、第三及び第五肋骨骨折、両恥骨骨折、右大腿骨骨折並びに右母指末節脱臼骨折の傷害を受け、昭和五〇年九月五日、入院先の原田病院で死亡したことは当事者間に争いがないので、以下本件事故発生の状況等につき審究するに、右争いのない事実に、原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証ないし第一一号証及び第一六号証を総合すると(同第九号証中、後記措信しない部分を除く。)、

(一)  本件事故現場は、川越方面から八王子方面に通じる片側二車線の国道一六号線(以下「本件道路」という。)の八王子方面行車線上で、本件道路は、本件事故現場の約七〇メートル八王子寄りにある変形交差点(以下「交差点」という。)付近では、両方面行車線とも、交差点手前五〇メートル付近からそれぞれ中央線寄りに右折専用車線が付加されているため、車道全幅員が拡がつており、各方面行車線は、交差点内の二五メートルの間を除いて、コンクリート製の中央分離帯により区分され(交差点川越寄りの中央分離帯は、川越方面行車線側では第二通行帯沿いに、八王子方面行車線側では、付加車線の拡がる手前では第二通行帯沿いに、付加車線の取付部分ではその外縁沿いに弧を描くように、付加車線部分では中央線沿いに設置され、高さは約二五センチメートルで、その幅は、本件事故現場の手前から次第に拡がり、最も広い部分で三・三メートル程度、本件事故現場付近から付加車線取付部の弓形の外縁沿いに次第に狭まり、付加車線の直線部分では五〇センチメートル程度になつている。)、三車線部分の車道幅員は九・八メートル程度、二車線部分の車道幅員は七・五メートル程度で、車道両側ともガードレールにより歩車道の区別がされた平担な道路となり、交差点付近から八王子方面に向け左側にゆるくカーブしているが、二〇〇メートル程度は見通し可能で、最高制限速度の指定はなく、本件事故当時は早朝で、通行車両は普通であつたこと、

(二)  被告長治は、加害車を運転し、川越方面行車線第二通行帯を時速約六〇キロメートルで走行し、交差点の手前に差しかかつた際、送り状を手に取つて積荷の配達先を確かめ、瞬時前方注視を怠つたため、交差点直前で、第一通行帯の通行車両と衝突しそうになり、慌てて右にハンドルを切つたため(被告長治が送り状を見ようとしてハンドル操作を誤つたことは、本件当事者間に争いがない。)、交差点川越寄りの中央分離帯に乗り上げ、次いで、右車輪を八王子方面行車線の付加車線側にはみ出させ、左車輪を川越方面行車線第二通行帯に残し、ハンドル操作及びブレーキ操作不能のまま走行し続け、中央分離帯の幅員が拡がるとともに左車輪を分離帯に乗り上げ、交差点寄りの側端から約五二・九メートル進行した地点で、八王子方面行車線の第二通行帯を走行してきた被害車の右前部に自車右前部を衝突させ、被害車を約一五・九メートル押し戻し、加害車を一七・八メートル川越寄りの八王子方面行車線上に横転させたこと、

(三)  両車の衝突地点は、八王子方面行車線第二通行帯の右側端寄りであつたが、本件事故現場付近には被害車のスリツプ痕は見当たらず、その他被害車には本件事故回避の措置を採つた形跡はなかつたこと、

以上の事実を認めることができ、乙第九号証の記載中右認定に反する部分は、前記認定に供した各証拠に照らし、直ちに措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(責任原因)

二 被告両名の本件事故についての責任の有無につき、以下判断することとする。

1  被告長治について

前記認定の事実によれば、被告長治が、加害車を運転中、目的地の工場の位置を確認するため送り状を見ようとしてハンドル操作を誤り、加害車を被害車の車線内に進入させた過失により本件事故を惹き起こしたことは、明らかであるから、被告長治は、民法第七〇九条の規定に基づき、本件事故により貞子及び原告四名が被つた損害を賠償すべき責任がある。

2  被告久重について

前掲乙第八、第九号証及び第一六号証並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証並びに被告久重本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると(被告久重本人尋問の結果中、後記措信しない部分を除く。)、被告長治は、被告久重の弟であるが(この事実は、本件当事者間に争いがない。)、昭和四八年一〇月頃、中古貨物自動車一台を購入し、それ以来、主として宇徳通運株式会社の下請運送業者として自営運送業を営んでいたところ、昭和四九年一月、加害車を新車として購入するに際し、車庫を有していなかつたことから、車庫証明を入手できる被告久重名義で購入しようと考え、同被告から同被告名義で加害車を購入することの承諾を得、同月、代金月賦払の約束で加害車を購入し、以来、同車を自営運送業に使用していたのであるが、購入代金は全額被告長治が負担して昭和五〇年九月までには完済し、責任保険の保険料、燃料費等の維持管理費についても同被告が全額これを負担しており、被告久重は、全く加害車の購入代金及び維持管理費を負担したことはなく、加害車を運転したり利用したことは勿論、その敷地に加害車を保管したこともなく、また、人的にも、資金的にも、被告長治の自営運送業を援助したり、共同してその経営に当たつたことはないことを認めることができ、被告久重本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前段認定に供した各証拠に照らし直ちに措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。しかして、右認定の事実によれば、本件事故当時、被告久重が、加害車の運行を支配し、また、加害車の運行の利益を享受していたものとは到底認められず、したがつて、同被告が加害車の運行供用者に当たるものとはいえないから、同被告には、本件事故により貞子及び原告四名が被つた損害を賠償すべき責任はないものというべきである。

(過失相殺)

三 前示認定の本件事故発生の状況及び本件事故現場の状況によれば、堀利弘は、被害車を運転中、進路前方の安全を十分確認していれば、加害車が、分離帯に乗り上げ、右側車輪を八王子方面行車線の付加車線にはみ出しつつ暴走してくるのを衝突の約三秒前から発見しえた(加害車は、時速約六〇キロメートル、すなわち、秒速約一六・七メートルを上まわらぬ速度で分離帯上を約五二・九メートル暴走したのであるから、暴走時間が三秒程度あつたことは明らかである。)にかかわらず、衝突直前までこれを認めず、何らの回避措置を採つた形跡もないことは明らかであり、もし、同人が十分の注意を払つた運転をし、急制動の措置等衝突回避の措置を採つた場合においては、衝突を回避しえたか、又はより少ない被害に止まつたものと推認することができるから、この点において堀利弘にも過失があるものと認めるを相当とするところ、原告長谷正子本人尋問の結果によれば、貞子は、昭和三〇年頃から堀利弘と同棲してきたことが認められるから、堀利弘の右過失は、貞子と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、すなわちいわゆる被害者側の過失として、貞子及び原告四名の損害額の算定に当たり斟酌するを相当というべく、その過失相殺による減額割合は一割とするのが相当である。

(損害)

四 よつて、以下貞子及び原告四名の被つた損害額について判断する。

1  治療関係費

成立に争いのない甲第五号証ないし第七号証及び原告長谷正子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、貞子は、本件事故による前記傷害のため、本件事故当日である昭和五〇年八月二九日から同年九月四日までの七日間医療法人原田病院に入院して治療を受け(同月五日午前零時二五分死亡)、この間の治療費、室料差額等として金一八四万六、三一〇円を要したほか、その間、症状が重篤であつたため付添看護を要し、原告四名の交互の付添看護を受けたことが認められるところ、その付添看護労働は、右病状等からみて、一日当り金二、〇〇〇円と評価するのが相当であるから、同割合による金一万四、〇〇〇円の付添看護料を要し、また、その間、少なくとも一日当り金五〇〇円の割合による金三、五〇〇円の入院雑費を要したものと推認でき、以上合計金一八六万三、八一〇円の治療関係費を負担し、同額の損害を被つたものと認められ、前示の過失相殺による一割の減額をすると、貞子の請求しうべき治療関係費の損害賠償請求権は金一六七万七、四二九円となるところ、成立に争いのない甲第二号証ないし第四号証及び弁論の全趣旨によると、原告四名は、いずれも貞子の子で、他に貞子の相続人はなく、いずれも、法定相続分(四分の一)に従つて右治療関係費の損害賠償請求権を相続したことが認められるから、その請求しうべき額は各金四一万九、三五七円となる。

2  葬儀関係費

成立に争いのない甲第八号証の五並びに原告長谷正子本人尋問の結果並びにこれにより成立の認められる甲第八号証の一ないし四及び第九号証の一ないし四を総合すると、原告四名は、貞子の葬儀及び納骨の法要を執り行い、それぞれ、原告四名主張の金一〇万円を下らぬ葬儀関係費を負担し、同額の損害を被つたことが認められるところ、前示の過失相殺による一割の減額をすると、原告四名の請求しうべき損害額は各金九万円となる。

3  逸失利益

前掲甲第二、第三号証及び原告長谷正子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、貞子は、本件事故当時五六歳(大正八年二月四日生れ)の女性で、内縁の夫堀利弘とともに、一〇〇坪程度の敷地に三〇坪程度の工場を持ち、約七人の従業員を雇用して、堀製作所名で金属加工業(玩具の鋳型製造業)を営み、自ら機械作業に従事する等して稼働していたことが認められ、右認定の同女の稼働状況及び年齢等に徴すれば、同女は、本件事故に遭遇しなければ、なお一一年間主婦及び金属加工業の共同経営者として稼働し、最初の一年間は当裁判所に顕著な昭和五〇年度賃金センサス第一巻第一表、産業計・企業規模計・学歴計・五五歳以上五九歳以下の女子労働者の平均賃金年収金一三七万四、六〇〇円の下回らぬ収入を、続く二年間は昭和五一年度賃金センサスの右同様の平均賃金年収金一三九万一、七〇〇円を下回らぬ収入を、続く八年間は同年度賃金センサス第一巻第一表、産業計・企業規模計・学歴計・六〇歳以上の女子労働者の平均賃金年収金一二五万三、二〇〇円を下回らぬ収入を得、この間、収入の五割を超えぬ生活費を要したものとみるべきであるから、以上を基礎として、ライプニツツ式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除し、貞子の得べかりし利益の喪失による損害の死亡時における現価を算定すると、原告四名主張の金五三五万一、九一三円を下らないことは計算上明らかであり、前示の過失相殺による一割の減額をすると、貞子の請求しうべき逸失利益の損害賠償請求権は金四八一万六、七二一円となるところ、原告四名は、いずれも、その法定相続分(四分の一)に従つてこれを相続したことは前記認定のとおりであるから、その請求しうべき額は、各金一二〇万四、一八〇円となる。

4  慰藉料

前掲甲第二号証ないし第四号証及び原告長谷正子本人尋問の結果によれば、原告四名は、貞子と高橋秀郎の嫡出子であるところ、貞子は、昭和三〇年頃、高橋秀郎と別居し、その頃から堀利弘と同棲生活を始め、昭和三四年、原告四名の親権者を父高橋秀郎と定めて協議離婚し、原告四名は高橋秀郎に養育されて成人したのではあるが、貞子は、この間常に原告四名と接触を保ち、学校行事に出席し、病気の際には看病に当たるなどし、原告四名は成人後も、度度貞子宅に泊りがけで遊びに行くなどしてきたことが認められ、右認定の諸事実に徴すれば、原告四名は、本件事故による貞子の死により、多大な精神的苦痛を被つたものと認められるところ、右認定の事実のほか、本件事故の態様、貞子の年齢等、本件弁論に顕れた一切の事情を考慮すると、原告側の過失を斟酌しない場合における本件事故により各原告の被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、いずれも、金一五〇万円とみるを相当とするところ、前示過失相殺による一割の減額をすると金一三五万円となる。

5  損害のてん補

以上によると、原告四名が本件事故により被つた損害額(弁護士費用を除く。)は、それぞれ、合計金三〇六万三、五三七円となるところ、原告四名が責任保険から、それぞれ金二九七万二、五〇〇円を受領し、右各損害に充当したことは当事者間に争いがないから、これを右各金額から控除すると、原告四名の請求しうべき損害額は各金九万一、〇三七円となる。

6  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告四名は、被告長治が任意に損害を弁済しないため、やむなく、本訴の提起、追行を原告四名訴訟代理人に委任し、手数料として、それぞれ、金八万円を支払う旨約したことが認められるが、本件審理の経過、事件の難易及び前記損害額にかんがみると、弁護士費用としては各金一万円をもつて、本件事故と相当因果関係ある損害とみるのが相当である。

(むすび)

五 以上の次第であるから、原告四名の本訴請求中、被告久重に対する各請求はいずれも失当として棄却すべく、また、被告長治に対する各請求は、いずれも、同被告に対し、金一〇万一、〇三七円及び右金員から弁護士費用を除く内金九万一、〇三七円に対する本件事故発生の日の後である昭和五一年一月二七日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条及び第九三条の規定を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武居二郎 島内乗統 信濃孝一)

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